以前図書館で借りた、石牟礼道子 著「魂の秘境から」より 印象に残った箇所を。
音声入力、変換して文章にしたせいで、ヘンテコな箇所がいくつかありました。
多分、こうじゃないかな?という適当な修正をしました。
変換ミスも多々あると思います。
原文と異なっている場合はそのためのミスです。
八幡様へのお参りが済んで帰り道、船津の渚で白衣を着た人々が川の中に入り海水と水が混じり合うあたりでお祈りを始めるのを見た。
何事かつぶやいていた。その光景を立ち止まって見ている人たちもいた。
「なんじゃろうかね」
と母が言う。「黙っとれ。らい病の人たち話ぞ」
らいと言うのは差別語で、今はハンセン病と言わねばならないが、当時はそんな呼称は知られておらず、私の親たちも使いようがなかった。

川から上がって、白衣からボタボタ雫をこぼしながら、私たちの前を通り過ぎる人々の姿が、目に焼き付いた。
足には新しい藁の草履を履いていた。
その1人と目があった。
私の猿郷の村の徳松どんで、我が家の田植えの加勢人だった。
徳松どんの片手には親指がなかった。母は達成の御礼を風呂敷に包んで肩に結わえ付けてやっていた。徳松どんの娘は私の同級生だったが、その後一夜にして親子の姿は消えた
世の中には、白衣のまま冷たい川水につかって、祈りを捧げねばならぬ人たちがいると言う事実が、幼い心に焼きついた。
花結びの着物が晴れがましく思う私とは、全く違う世界に住んでいる人々がいるのだ。これが私の、世界へのはじめての目覚めであったと思う。
0コメント